複素解析ゼミノート(2) ―有理関数と有理型関数
前回:一致の定理
最近,阪ゼミの集会で複素解析ゼミの進捗報告をする機会を頂きました.
そこで発表した内容の原稿をMarkdownでまとめていたので,それをほぼそのままこっちに載せることにしました.
内容は,有理関数とその一般化である有理型関数とを結びつける定理についてです.
有理型関数は一般的に有理関数とはなりませんが,広義の複素平面上の有理型関数を考えると,それは必ず有理関数になっているという定理です.
前半ではその定理の証明に必要な定義や定理の羅列が続きますが,その点はどうか許して欲しい所です.
最後を除く全ての定理は,証明なしに認めることにしています.
1.孤立特異点
$r>0$ に対して $U_r(a)^* := \{ z\in\mathbb{C} \,; 0 < |z-a| < r \}$ と定め,これを $a$ の除外近傍ということにする.
Def.1.1 (正則関数)
$D\subset\mathbb{C}$ は開集合とし,複素数値関数 $f(z)$ は $D$ 上で定義されているとする.このとき,
は で複素微分可能 が存在する は 上で正則 上の任意の点で は複素微分可能
と定義する.また,$A \subset \mathbb{C}$ に対して
は 上で正則 を含むある開集合上で は正則
とし,特に点 $z_0$ に対して
は で正則 を含むある開集合上で は正則
と定める. $\square$
「$z_0$ で正則」の方が「$z_0$ で複素微分可能」より強い条件であることに注意する.
Th.1.3 (Laurent展開)
$f(z)$ は $U_r(a)^*$ 上で正則とする.このとき, $f(z)$ は $U_r(a)^*$ 上でコンパクト一様(広義一様)かつ絶対収束する級数により
$$
f(z) = \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_n(z-a)^{n} \quad (z \in U_r(a)^*)
$$
と一意的に表される.また,この級数を $a$ を中心とする $f(z)$ のLaurent級数といい, $f(z)$を上式のように書き表すことを $a$ を中心としてLaurent展開するという.$\square$
Def.1.4 (孤立特異点の種類)
孤立特異点 $a$ を中心とする $f(z)$ のLaurent級数を
$$
f(z) = \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_{n}(z-a)^{n}
$$とする.負べきの項を集めた級数 $\sum_{n=-\infty}^{-1} c_{n}(z-a)^{n}$ を $f(z)$ の $a$ における主要部という.このとき,
が の除去可能特異点 の における主要部が が の極 の における主要部が有限和で,かつ でない. が の真性特異点 の における主要部が無限和で,かつ でない
のように定める.また,$a$ が $f(z)$ の除去可能特異点であるとき, $f(z)$ が $a$ で正則になるように $f(a)$ を定めることができるので,このときも $f(z)$ は $a$ で正則であるということにする.$\square$
Def.1.5(無限遠点)
複素平面 $\mathbb{C}$ に1点 $\infty$ を加えた $\mathbb{P}=\mathbb{C} \cup \lbrace \infty \rbrace$ を考える.$\mathbb{P}$ を2次元球面 $\mathbb{S}^2$ と同一視し,$\mathbb{P}$ の位相を $\mathbb{S}^2$ によって定めると,$\mathbb{S}^2$ がコンパクトであるから $\mathbb{P}$ もコンパクトとなり,$\mathbb{P}$ の部分空間としての $\mathbb{C}$ の位相は元の $\mathbb{C}$ の位相と一致する.このような,$\mathbb{P}$ を広義の複素平面またはRiemann球面といい,$\infty$ を無限遠点と呼ぶ.
また,$\lbrace z\in\mathbb{C} \,; |z| > r \rbrace \cup \lbrace \infty \rbrace$ の形の集合を無限遠点の $r$-近傍とし,$g(z) := f(1/z)$ とおくことで
無限遠点は の極(除去可能特異点) は の極(除去可能特異点) が の無限遠点における主要部 が の における主要部
のように定める.$\square$
2.有理型関数
Def.2.1 (有理型関数)
$D \subset \mathbb{P}$ を領域とする.このとき,
は において有理型関数 集積点を持たないある集合 が存在し, は 上正則で,かつ の各点は の極である.
$\square$
Th.2.2 (Liouvilleの定理)
$\mathbb{C}$ 上で正則かつ有界な関数は定数関数のみである. $\square$
有理関数は有限個の極を持つことから有理型関数であるが,逆は一般に言えない.しかし,次のTh.2.3によると,ある条件下では有理型関数が有理関数であることが言える.
Th.2.3 (広義の複素平面上の有理型関数)
は有理関数 は 広義の複素平面 上の有理型関数
$\square$
pr.
ここでは $\mathbb{P}$ 上の有理型関数が有理関数となることだけを示すことにする.$f(z)$ の極全体の集合を $A$ とおく.$f(z)$ が $\mathbb{P}$ 上の有理型関数であるとすると,無限遠点は $f(z)$ の極または正則点となるが,いずれにしても無限遠点のある除外近傍 $\lbrace z\in\mathbb{C} \,; |z|>r \rbrace$ 上で正則となる.もし,$A$ が無限集合であるとすると,Bolzano-Weierstrassの定理より $A$ は有界閉集合 $\lbrace z \,; |z| \le r \rbrace$ 上に集積点を持つ.これは有理型関数の定義に反するので,$A$ は有限集合である.
$\mathbb{C}$ 上の極を $a_1, \cdots, a_n$ と書くことにし,$a_i$ における主要部 $P_i(z)$ および無限遠点の主要部 $Q(z)$ を
$$
P_{i}(z) := \sum_{k=1}^{l_i} \frac{c_{i k}}{(z-a_i)^{k}}, \quad Q(z) := \sum_{k=1}^{m} d_{k} z^{k}
$$とする.ここで,
$$
\varphi(z) := f(z) - \sum_{i=1}^{n} P_i(z) - Q(z)
$$とおく.$a_{\nu}$ を中心とする $f(z)$ のLaurent展開を考えると,$a_\nu$ のある除外近傍上で $f(z) = P_\nu(z) + R_\nu(z)$ が成り立つ.ただし,$R_\nu(z)$ はその除外近傍上で正則な関数とする.よって,$\varphi(z)$ はその除外近傍上で
$$
\varphi(z) = R_\nu(z) - \sum_{i \ne \nu} P_i(z) - Q(z)
$$と表すことができ,これは $a_\nu$ の近傍上で正則なので $a_\nu$ は $\varphi(z)$ の除去可能特異点である.これより,$\varphi(z)$ は$\mathbb{C}$ 上正則である.また,無限遠点を中心とする $f(z)$ のLaurent展開を考えると,無限遠点のある除外近傍上で
$$
f(z) = Q(z)+\sum_{k=0}^{\infty} \frac{d_k}{z^{k}}
$$が成り立つ.よって,$\varphi(z)$ はその除外近傍上で
$$
\varphi(z) = d_{0} + \sum_{k=1}^{\infty} \frac{d_{k}}{z^{k}} - \sum\_{i=1}^n P_{i}(z)
$$と表すことができるので,$\lim_{z\to\infty}\varphi(z) = d_0$ である.これより,$f(z)$ は $\mathbb{C}$ 上有界である.
以上より,Liouvilleの定理から $\varphi(z)$ は定数関数である.さらに,$\lim_{z\to\infty}\varphi(z)=d_{0}$ であるから $\varphi(z) \equiv d_0$ を得る.ゆえに,
$$f(z) = \sum_{k=0}^{m} d_k z^{k} + \sum_{i=1}^{n} P_{i}(z)$$
が成り立つが,これは有理関数である. $\square$